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https://ousar.libokayama-uac.jp/ja/journal/hssれるようになりました。段階としては分離(セパレーション)や統合(インテグレーション)です。しかし、場を共有していても、社会的少数派の人は特別な存在でした。特別な配慮やケアを必要とするという理解が根底にあるためです。重度の障がい等で支援を必要とする人はあるので、この考え方自体は否定されるものではありません。包摂の考え方は、下の図ではひとつの円の中にすべての人が共に存在することで示されています。木庭会長の「知ることは、障がいを無くす。」という言葉からは、「特別な存在だと区分される必要がない場面においても、実は区分してしまっていないか?」と問いかけられているように感じます。ありがとうファームの魔法を知りたいなと思っていたはずの私が「ふつう」だと感じたのは、意識のどこかに書いてしまっていた線を、現実という消しゴムで消せると思えたからではないでしょうか。分離や統合の図の中にある境界線を消すためには、知ることが大切なのだと強く思います。アーティスト自身はどう思っているのだろうと思い、カスミンさんとカナッペさんにもお話を聞きました。お二人との対話で特に印象的だったのは、「作品に出合う瞬間」についてです。ご自身の創作ではあるのだけれど、着想として湧き上がってくるというよりは、その存在を「見つける」も※論文は2023年1月以降にこちらで読む事ができます。吉川幸(2022).アートを介した共生社会創造の可能性︱就労継続支援A型事業所ありがとうファームの事例より︱.岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要のなのだと。それは、手を動かして創作している時にいつも感じていた懐かしい感覚を思い起こさせるものでした。ハブラボにやって来た子どもたちが「見つける」経緯を見守り、時に助言するアーティストのまなざしは、だから優しいのだなと思いました。とびきりの材料を見つけて喜びの声を上げたり、真剣なまなざしで集中したりしながら、新たな作品と出合って誇らしげに輝く子どもたちと、少しばかり年上の先輩として見守っているアーティスト。感性が交流するハブラボはまるで万華鏡のようにも思えます。今年の冬、論文をひとつ発表します。「アートを介した共生社会創造の可能性︱就労継続支援A型事業所ありがとうファームの事例より︱」というタイトルにあるように、ありがとうファームのアート部門の活動を振り返って考察したものです。これまでの多くの報道記事の一覧も入れました。ありがとうファームの取組の先見性やユニークさが、情報を必要としているところへ届き、共生社会の実現を目指す方々の一助になればと願っています。第54巻京都府木津川市出身。大学卒業後は民間企業で教育事業を長年担当。2016年岡山大学の社会連携型教育を企画運営する実践型教育プランナーとして「地域ぐるみのひとづくりフォーラム」、「中四国CBL研修交流会」等を主催。2020年より准教授として岡山大学の共創教育を担い、2021年より現職。岡山大学 副理事(共創教育・SDGs教育担当)。出典 Conseil Économique, Social et Environmental (2014:21-25)を参照して筆者作   ..   21吉川 幸Miyuki Yoshikawa

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