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 「知ることは、障がいを無くす。」というタイトルに引き寄せられるように木庭寛樹会長のご著書を一気に読んだのは、副社長の馬場さんとある勉強会でお話しする機会があったからでした。ありがとうファームの活動を新聞記事やニュースで見聞きしてはいたものの、実際の様子を見たことがなかったので、馬場さんのお話にとても興味を持ったからです。それからしばらくして、ギャラリー&カフェを訪ねました。馬場さんと深谷さんからの「まずはメンバーの活動を見てみませんか」という勧めに従って、2階のアトリエとコチャエで創作活動をしているアーティストの方々の様子を見学させていただきました。この時の私は、ありがとうファームという存在を知りたくて、すりガラス越しに目を凝らしている状態です。知りたいけれども、まだ知らない。この中にはどんな世界があるのだろう。ひょっとしたらとんでもない魔法使いがいるのかも?でも、見学してみると、拍子抜けするほどに「ふつう」でした。私が近づくとどの方も、手を止めて、体ごとこちらに向き直って、手元の作品や使っている技法について丁寧に説明してくださいました。実は私は幼い頃から手仕事が好きで、編み物やビーズ細工を始めると食事の時間さえ忘れて集中するような子どもだったので、皆さんのお話を聞くのがとても楽しかったのです。さまざまな材料や作品がそこここに置かれた空間にワクワクしてもいました。どんなものでも宝物に思えて綺麗な箱や缶にため込んでいた幼い日の感覚を思い出すのです。アトリエのあちこちで、絵筆やペンやコンピュータを使って思い思いのスタイルで活動する空間は、居心地がよく、あたたかく感じられました。木庭会長は本の中で、「障がいを持っていても『何もできないわけじゃない、なんだってできるんだ』ということを社会に証明し、正しい共生社会を作ることに貢献したい」と書かれています。共生社会とはどういうことでしょうか。2020東京オリンピック・パラリンピックの開催決定を機に政府は「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」を設置し、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を決定しました。この中に「共生社会」の定義があります。我々は、障害の有無にかかわらず、女性も男性も、高齢者も若者も、すべての人がお互いの人権や尊厳を大切にし支え合い、誰もが生き生きとした人生を享受することのできる共生社会を実現することを目指している。この共生社会は、様々な状況や状態の人々がすべて分け隔てなく包摂され、障害のある人もない人も、支え手側と受け手側に分かれることなく共に支え合い、多様な個人の能力が発揮されている活力ある社会である。この定義の中には、「ふつう」も「ふつうではない」もありません。あるのは「すべての人」「誰もが」です。誰もが人権や尊厳を大切にできる社会のあり方を、包摂(インクルージョン)と言います。産業革命以後の工業化社会では、社会発展を担う人材をより早く、より多く育てるための集団指導が行われました。効率を重視する当時の社会のあり方は、社会的少数派の人々を排除する排除(エクスクルージョン)の世界です。その後、社会的少数派を取り残さないあり方が考えら出典ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(2017).ユニバーサルデザイン2020行動計画岡山大学教育推進機構准教授吉川 幸ハブラボ万華鏡20       

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